緩和ケア外来に参加して

 僕は将来、緩和医療をspecial interestにしたいと考えています。時間がある初期研修の間に少しでも勉強してみたいと思い、上司に許可を貰い、週に1日は緩和ケアチームに混ざって、外来や病棟ラウンド、カンファレンスなどに参加させてもらっています。

 

 当院には、常設の緩和外来やチームはありません。週に1回、緩和医療専門医1名を含む医師2名(麻酔科、精神科)と、緩和ケア認定看護師、臨床心理士の4名で、主に入院患者にチーム介入しています。退院後は、緩和ケア外来でフォローアップも可能ですが、転院先の緩和ケアチームや、退院後のかかりつけや在宅医に引き継ぐことが多いです。

当院ががん拠点病院で、緩和ケア外来へコンサルトされる患者の多くは担癌患者です。

 

 医師としてチームに参加するので、疼痛コントロールうつ状態、使用薬剤の副作用対策として、薬剤を中心に調整することがメインですが、患者さんの主訴には、薬剤調整ではどうにもならないことが多々あります。

 末期卵巣がん患者で、トルソー症候群を合併し1か月前に左半身麻痺になった50代女性の主訴は、「姪っ子に会いたい。」でした。姪っ子は車で1時間ほどかかるところに住んでいて、以前は頻繁に会っていたようですが、新型コロナウイルスの流行で、1年ほどあえていなかったようです。療養先として、姪っ子の近くを希望されましたが、姪っ子がいる地域には、在宅診療を生業にしている医療機関は数えるほどしかなく、いずれもいっぱいいっぱいで、新規患者の受け入れは困難でした。終末期医療を受けるために、他の人の「死」を待つという、なんとも言えない現状が、現場にはありました。

 

 当院は急性期病院で、僕は普段は病棟管理を中心に行っています。救急車で来たor紹介で来た人を、診断して、治療して、良くなったら自宅に帰せればいいですが、多くはリハビリテーション目的に別の医療機関へ転院することが多いです。直接在宅医へ繋いだことは、2年間で数回しかありませんでした。在宅診療導入が難しい時は、とりあえずリハビリテーション目的に転院し、転院先で調整してもらうことが多かったです。それが悪いこととは思いません。急性期病院には、急性期病院の役割があります。もし、すべての患者の在宅診療導入を当院で行っていたら、数週間で満床になり、救急車を受けられなくなってしまうでしょう。しかし、一つ、大きな問題があります。それは、初期研修の研修病院は、そのほとんどが急性期病院であるということです。様々なキャリアプランがある現在ですが、多くの医師は、初期研修後に大学病院や地域の中核病院などの急性期病院で専攻医となるキャリアプランを経る人が多いと思います。病気の治療を学ぶことはできても、その人が地域生活にどのように復帰するのかを知る機会は、地域に派遣された時や、開業した時に初めて感じることが多いのではないかと思います。

 

 在宅医療の現状や、薬では治せない主訴について考える機会を得ることができました。これを読んでいる皆さんも、週1回でも、月1回でもいいので、そうした医療について考える機会を意図的に作ってみてはいかがでしょうか?

アルコール依存症の初期治療

アルコール依存、アルコール性肝障害の症例での治療をまとめてみました。アルコール患者はproblemの宝庫(当院救急科Dr.談)というように、様々な注意を要する患者さんでした。一般的な部分を、自分のoutputもかねてまとめてみます。

 

①栄養

 アルコール多飲者は、食事が偏りがちです。リフィーディング症候群に注意しながら栄養開始しなくてはいけません。体重×10(kcal)を一日カロリーとして開始。100~200kcal/日ずつ増量していきます。腎機能、Na、K、Cl、K、P、Mgを連日フォローアップし、できれば心電図モニターなどを装着しておくといいです。急性期は末梢静脈栄養でもいいかもしれませんが、嚥下機能や消化管の萎縮を防ぐためにも、できるだけ経口、経腸栄養を優先させるべきだと思います。今回の症例では、入院3日目に経口摂取トライしましたが、後述のジアゼパムの影響で摂取できなかったので、経鼻胃管挿入し、経管栄養を開始しました。その後、言語聴覚士に嚥下機能評価と嚥下リハビリテーションを依頼し、入院7日目には経口摂取のみで栄養を摂取しきるようになりました。

 

 カロリーと同時に、ビタミンにも注意を払う必要があります。特に、VitB1欠乏に注意が必要です。フルスルチアミン 500㎎×3回/日 2日間→250㎎×1回/日 5日間→100㎎内服 1週間でウェルニッケ脳症予防しました。一度発症すると、神経学的予後が不良のため、しっかりと対策しましょう。過量投与しても、過剰分は尿から排泄されるので、尿量が保てていれば、オーバー気味でも投与してOKです。

 

 また、一般的ではないですが、今回の症例では、大球性貧血を来していました。フォリアミン錠3T3×、メコバラミン 500μg 3T3×で葉酸、VitB12を補充しました。外注が帰ってきて、葉酸、VitB12は低下ないことを確認できたので、内服終了にしています。アルコールによる代謝異常から大球性貧血を来していると思われました。

 

②肝性脳症

今回の症例では、羽ばたき振戦など、肝性脳症を疑う所見は乏しく、あまり意識しませんでした。基本的には、出現した症状にたいする対症療法がメインなので、症状が出現したら開始するのでいいのではないかなと思います。栄養開始の面で、へパンED内用液を使用しました。

 

③アルコール離脱症候群

大離脱は1週間を目安に終了するといわれています。通常は、ジアゼパム錠(5)3T3× 3日間→ジアゼパム錠(2)3T3× 4日間投与で様子見ますが、肝障害がある時は半量から開始します。

今回は、ジアゼパム錠(2)3T3× 3日間→ジアゼパム錠(2)1.5T3×で1日投与しましたが、傾眠が強く、経口摂取の阻害因子となってしまってしまいました。そのため、5日目にジアゼパム錠(2)1T2×→0.5T1×と漸減しました。離脱症状は認めず、ジアゼパムをoffにした入院7日目からは意識もしっかりとし、経口摂取良好となりました。漸減するといいというエビデンスはないので、スパッと切ってみるのも一つの手段かもしれません。

反省症例:腹痛

僕が副直として当直中に経験した症例です。(個人情報保護のために、一部情報は改変しています)

 

70代の胆摘の既往のあるADL自立した男性が、3時間前の急性発症の腹痛で搬送されてきました。

横になっていた時に、突然、臍周囲が痛くなったとのこと。搬送時は痛みは10段階で7→3へ改善していました、

 

肥満体形で、腹部膨満しておりますが、反跳痛や筋性防御は認めませんでした。腹部レントゲンではわずかですが、二ボー形成様の所見を認めました。腹部エコー検査では腹腔内液体貯留はなく、一部軽度肥厚した小腸を認めました。

 

皆さんはどのような疾患を想起しますか?

多くの方は、イレウスを鑑別に挙げると思います。この時、主直の先生も、僕も、同じように、イレウスを考えました。腹膜刺激症状はなく、バイタルも安定しており、症状も改善傾向のため、緊急手術の必要はないだろうと思い、腹部CT検査は翌朝検査することにし、入院の方針としました。

ここでふと、血液検査を再度確認すると、D-dimerが6μg/mLと軽度上昇していました。突然の発症、疼痛は軽減も残存、血圧は150/80mmHg前後、D-dimer高値から、僕は別の疾患の可能性を考えました。腹部大動脈解離です。腹部エコーでflapを念入りに探しましたが、皮下脂肪が厚く、腹部大動脈は描出できませんでした。上行大動脈や総頚動脈は描出でき、flapはありませんでした。

主直の先生に、「腹部大動脈解離の可能性とかはどうでしょうか?」と提案しましたが、主直は消化器内科のDr.で「このレントゲンはイレウスだよ。麻痺性イレウスじゃないかな?D-dimerは、高齢者だし高いことはよくあるよ。」とのこと。

「腹部エコーで大動脈が描出できないけど、腹痛は収まってきているし緊急感はないかもな。消化器内科医がイレウスと言っているし、そうなんだろう。」、と自分なりに解釈し、病棟に入院させました。

 

 

翌日勤帯で、腫瘍などでの単純性イレウスの除外目的に施行した腹部造影CT検査では、完全偽腔閉塞型腹部大動脈解離の所見を認めました。手術適応はないので、循環器内科へ転科となりました。入院中は収縮期血圧160mmHg前後で推移しており、急いで降圧を開始しました。

万が一、解離腔が進展していたり、腎動脈や総腸骨動脈を巻き込んでいたら、腹部大動脈瘤の切迫破裂の経過だったとしたら、と考えるとぞっとしました。

急性大動脈解離において、D-dimerを0.5μg/mL以上をカットオフとすると、感度は何と96~100%と言われています。つまり、検査前確率が低ければ、D-dimerだけでも大動脈解離は除外できてしまうと言えます。(あくまで検査前確率が低い時にはです。)一方で、特異度は54~61%程度と言われて、D-dimerが高いからと言って、大動脈解離の確定診断にはあまり寄与しません。簡便性から用いられることの多い、経胸壁エコーも感度・特異度(59~83%・63~83%)的にはいまいちで、また、行う人のエコーの技量も大きく関わってきます。経食道エコーなどもありますが、侵襲が大きく、むしろ血圧上昇を招くのではとの声もあります。(また、経食道エコーでは腹部大動脈は評価できません。)

D-dimerの感度は高いですが、4%の見逃しを考慮すると、大動脈解離を少しでも疑った場合は、単純でも構わないのでCT検査を考慮する必要があるのかもしれません。

 

今回の症例では、Overconfidence Bias、Anchoring Biasが診断の妨げになったのかなと思われます。自分が引っ掛かりやすいBiasを意識しながら、診療を行っていきたいです。

 本日は、私が育児休暇を取得した時に不安に思ったことや、周囲から聞かれたこと、上級医から言われたことからいくつかを抽出し、私の意見を述べたいと思います。今後育児休暇を取得する皆さんの決断の一助となれば幸いです。

 

①育児休暇を取得すると、周囲の研修医に後れを取るのではないか

 これが、育児休暇取得を考える際の最大の不安ではないかと思います。初期研修医としての研修期間は一般的には2年間であり、この期間は必ず指導医の指導の下診察を行うこととなっています。指導医から直接指導を受けながら、学生ではできなかった侵襲的な行為も行えるので、初期研修の2年間は非常に重要な期間であることは間違いありません。

 では、育児休暇を取得することで周囲の研修医に後れを取ることがあるのでしょうか?短期的にみると、数か月分の医学知識の差はあるかもしれません。しかし、長い医師人生を考えると、それは大きな差にはならないと思います。そればかりか、医学ばかり勉強してきた40年と、育児についてもしっかりと関わった40年では、医療者としての深みに差が出てくるのではないかなと思います。育児をしていて思うのは、親と言う生き物は、自分の子どもの変化については極めて敏感であるということです。病院で見た他の人の子どもの皮疹と、自宅で見た自分の子どもの皮疹では、医師としての自分のアセスメントに差が出ている気がします。大丈夫とはわかりつつも、自分の子どもではどうしても不安がぬぐい切れません。医療者でもそうなのですから、一般の方の不安はそれ以上かもしれません。この不安は、24時間医療体制で、いつでも検査・治療が可能である病院のなかでは味わうことのできないものだと感じます。この不安を一度味わうと、深夜2時の飛び込み受診をする両親の気持ちを痛いほど理解できます。患者背景、患者感情を真の意味で理解するには、自分自身が患者にならないとわかりません。子どもは、私たちにその貴重な機会を与えてくれているのですから、あとでいくらでも学ぶことのできる数か月の医学知識を育児より優先するのは、長期的に考えると極めてもったいないのではないでしょうか。

 

②男が育児休暇取ってもすることないよ。それよりも仕事をした方が奥さんも喜ぶでしょ。

 この発言の答えは、これを言っているのが男性医師だけということがすべてではないでしょうか。女性医療スタッフに聞くと、「旦那が育児を手伝ってくれなかったから、私が長く育児休暇を取らざるを得なかった。」と言う発言は非常によく聞かれます。普段の家事に加えて、授乳したり、あやしたりなど、マルチタスクを同時に行う必要があり、一人でこれを毎日行うとなると、自分自身の生活の多くが犠牲となってしまうでしょう。育児を行う生活に慣れるまでの1ヶ月でも、育児休暇を取得してみるのはいかがでしょうか。女性は産後原則8週間(希望があり、医師の許可があれば6週間)は産後休業をする必要があり、気が付いたら育児の中心が女性に傾いてしまい、女性に大きな負担を強いってしまうことが考えられますので、男性は特に育児について意識を傾けるようにしましょう。

 また、日本は累進課税制であるので、節税の面からも、女性のみに育児を任せるのではなく、男性・女性ともに時短で仕事をするほうが、男性のみが仕事をして女性が専業主婦になりよりもいいのかもしれません。この辺の医師の税金対策については、いつかまとめたと思いますので今日は割愛します。

 

③そもそも、研修医って育児休暇を取れるの?

これについては、以前の記事で詳細を記載していますので、ぜひ参照してみてください。

結論から言うと、初期研修医も最大90日間は育児休暇を取得することは可能です。 https://drandns.hatenablog.com/entry/2020/10/10/231607?_ga=2.36026784.1254853777.1602473357-775626982.1579499091

 

 

いかがだったでしょうか。

 聞かれた機会の多い質問3つについて、私見を述べてみました。上記以外や、上記について詳しく聞きたいときは、コメントいただけると、気が付いた時に返信させていただきますので、遠慮なく記載してください。

最近、男性育児休暇が話題ですね。

2020年7月1日に公表された「選択する未来2.0」の中間報告では、男性育児休暇を義務化したり、強力なインセンティブを与えるといった提案もされたりしており、国家として現状の女性中心の育児を改革していく流れとなっています。

かくいう私も、現在育児休暇を取っているのですが、そのことを話すと、多くの方から、「初期研修医って育児休暇取れるんですか!?」と聞かれます。

結論から言うと、初期研修医であっても、2年間の研修期間の間に育児休暇を取得することは可能です。今回は、初期研修医の育児休暇について説明していきたいと思います。

 

育児休暇は、育児・介護休業法で定められており、原則として子どもが1歳になるまで(パパ・ママ育休プラスやパパ休暇などの制度を使用することで期間の延長制度などもあり)取得が可能です。

厚生労働省の2019年度の調査では、女性の育児休暇取得率は83%に対し、男性育児取得率は7.48%と極めて低い取得率となっています。この現象は医者の現場でも同様です。少し古いデータになりますが、2014年2月に日本医師会から公表された「男女共同参画についての男性医師の意識調査」では、男性医師の育児休暇習得率は2.6%と極めて低くなっています。育休取得については、82.6%の男性医師が「育児休暇取得を考えてことがなかった。」と答えており、私の周囲を見ても、「医者は24時間365日病院にいるべきだ!育児は妻に任せて、男は仕事だ!」まで過激ではないにしても、同様のことを考えている男性医師が大多数の様に感じます。特に、初期研修医は医学部卒業後の2年間の研修期間であり、有給取得すら気を使う傾向がある様に感じます。最近は働き方改革の効果もあり、有給取得率も上がってきていますが、育児休暇については、「育児休暇を取ると研修を2年間で修了できない。」と言った誤解が男性研修医の育児休暇取得の妨げになっていると考えられます。

 

では、ここからが本題です。

初期研修医の研修修了の要件については、厚生労働省の「医師臨床研修における修了等の基準に関する提言」(平成17年6月)に記載があります。以下が、部分抜粋になります。

 

5 臨床研修の修了基準

5-1 

(1)休止の理由

 研修休止の理由として認めるものは、傷病、妊娠、出産、育児、その他正当な理由(研修プログラムで定められた年次休暇を含む)とするべきである。

 

(2)必要履修期間等についての基準

 研修期間(2年間)を通じた休止期間の上限は90日(研修機関(施設)において定める休日は含めない)とするべきである。

 各研修分野に求められている必要履修期間を満たしていない場合は、選択科目の期間を利用する等により、あらかじめ定められた臨床研修期間内に各研修分野の必要履修期間を満たすよう努めるべきである。

 

(3)休止期間の上限を超える場合の取扱い

 研修期間終了時に当該研修医の研修の休止期間が90日を超える場合には未修了とするべきである。この場合、原則として引き続き同一の研修プログラムで研修を行い、90日を超えた日数分以上の日数の研修を行うことが必要である。

 また、基本研修科目又は必修科目で必要履修期間を満たしていない場合にも、未修了として取扱い、原則として引き続き同一の研修プログラムで当該研修医の研修を行い、不足する期間以上の期間の研修を行うことが必要である。

 

 

上記をまとめると、

①必修科のローテートを修了し、

②休暇取得は90日以内であれば

問題なく、初期研修の修了条件を満たすことができます。また、雇用形態にもよりますが、非常勤扱いの研修医であっても、育児休業給付金や社会保障料の免除なども条件を満たせば受けることができます。

つまり、制度上は、たとえ研修医であっても育児休暇を取得することが可能というわけです。しかし、実際取得しようとすると、「研修中断で周囲の研修医と差が出るのではないか。」、「育児休暇を取得したいけど、上司は認めてくれなさそう。誰に相談すればいいのかわからない。」などの問題が出てくると思います。次回の投稿では、そういった問題について説明していきたいと思います。

 

最後に、私は現在育児休暇を取得しており、妻とともに子育てをしておりますが、二人で行っても大変なのが育児です。沐浴などはもちろん、原因不明の夜泣きや、子どもの皮膚トラブルなど、病院にいてはたとえNICUや小児科をローテートしても経験できない体験が目白押しです。自分の子どもの育児ができる機会は、人生でそう何度も訪れるものではありません。せっかくの機会ですから、一日中育児をする経験をぜひ選択してみてはいかがでしょうか。